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エレベーター等の昇降機の「検査」と「点検」の違いとは?法的根拠は?

エレベーター等の昇降機の「検査」と「点検」の違いとは?法的根拠は?

エレベーターやエスカレーター、小荷物専用昇降機(ダムウェーター)、段差解消機、いす式階段昇降機などの昇降機の維持管理については、安全のため「検査」や「点検」について建築基準法などの法令で定められています。

この「検査」と「点検」、似たような言葉なので混同してしまいそうですが、昇降機の維持管理の分野では異なる意味を持ちます。

そこで

  • 「昇降機の『検査』と『点検』の違いは何か?」
  • 「昇降機の『検査』や『点検』は必ずしなければならないのか?」

について、説明いたします。

なお、確認申請を伴う新築や改修で昇降機の工事が完了した時に行う「完了検査」(建築基準法第7条)についてはこの記事では述べていません。

関連記事:「POG契約」と「フルメンテナンス(FM)契約」の違いとは?エレベーター等の昇降機の保守点検

 

目次

  • 建築基準法における昇降機の「検査」と「点検」の違いとは
  • 昇降機の「検査」とは
    • 別名:「定期検査」・「定期検査報告」・「法定検査」など
    • 昇降機の「検査」の法的根拠
    • 罰則
    • 対象となる昇降機
    • 定期報告の対象除外となる昇降機
    • 国等の建築物に設けられた昇降機
    • 定期検査の実際の作業内容、流れ
    • 定期検査の契約について
  • 昇降機の「点検」とは
    • 別名:「保守点検」・「メンテナンス」・「保守メンテナンス」・「定期点検」など
    • 昇降機の「点検」の法的根拠
    • 保守点検の周期
  • 昇降機の「検査」・「点検」の契約

 

 

建築基準法における昇降機の「検査」と「点検」の違いとは

エレベーターなどの昇降機の維持管理では一般的に「検査」と「点検」の両方を実施しますが、その2つは異なる意味を持ちます。

その違いは、簡単に述べると、次のようになります。(細かくは異なる部分がありますが、それについては後述します。)

  • 「検査」は、毎年実施し、報告書を特定行政庁に提出するもの。「定期検査」とも言う。
  • 「点検」は、基本的には毎月実施するもの。「定期点検」とか「保守点検」とも言う。

それでは以下に「検査」と「点検」について詳しく書いていきます。

昇降機の「検査」とは

別名:「定期検査」・「定期検査報告」・「法定検査」など

エレベーターなどの昇降機の検査は、しばしば「定期検査」、「定期検査報告」、「法定検査」などと呼ばれます。

 

昇降機の「検査」の法的根拠

建築基準法第12条3項に、昇降機の定期検査報告について定められています。

(国等の建築物の昇降機については建築基準法第12条4項に定められています。これについては後述します。)

建築基準法 第12条(報告、検査等)
3 特定建築設備等(昇降機及び特定建築物の昇降機以外の建築設備等をいう。以下この項及び次項において同じ。)で安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものとして政令で定めるもの(国等の建築物に設けるものを除く。)及び当該政令で定めるもの以外の特定建築設備等で特定行政庁が指定するもの(国等の建築物に設けるものを除く。)の所有者は、これらの特定建築設備等について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築設備等検査員資格者証の交付を受けている者(次項及び第十二条の三第二項において「建築設備等検査員」という。)に検査(これらの特定建築設備等についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含む。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。

要するに「昇降機の所有者は、定期的に、資格者に『検査』をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない」ということになります。

ここでの「資格者」とは次の通りです。

  • 一級建築士もしくは二級建築士
  • 昇降機等検査員(旧名称:昇降機検査資格者)

実際には保守点検会社に所属する「昇降機等検査員」が行うことがほとんどです。

また、「定期に」とある検査の頻度は特定行政庁が決めていますが、ほとんどは「毎年」とされています。

特定行政庁とは、基本的には、東京23区であれば区長、建築主事を置いている市町村(原則は人口25万人以上の市)であれば市長等、その他の市町村であれば都道府県の知事となります。ただし、一部地域では、建築物の規模や地域などによって定期検査の報告先が分かれている場合があります。

 

罰則

建築基準法第101条において、昇降機の所有者等が定期検査の報告をしなかった場合、100万円以下の罰金に処するとされています

建築基準法

第百一条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。

二 第十二条第一項若しくは第三項(これらの規定を第八十八条第一項又は第三項において準用する場合を含む。)又は第五項(第二号に係る部分に限り、第八十八条第一項から第三項までにおいて準用する場合を含む。)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者

定期報告の対象は昇降機だけでなく、他の建築設備や防火設備も定期報告が義務付けられていますが、定期報告を怠った上で事故が発生し、建物の所有者やテナントオーナー等が実刑判決になった事例もあります。(参考:建築基準法 定期報告を怠ったり偽ったりした場合のリスク・罰則 ビューローベリタスジャパン株式会社 )

 

対象となる昇降機

まず、建築基準法でいう「昇降機」とは、以下に掲げるものを指します。

建築基準法での「昇降機」

昇降機建築基準法施行令第129条の3

  • エレベーター
  • エスカレーター
  • 小荷物専用昇降機(ダムウェーター)

また、「特殊な構造又は使用形態のエレベーター」として、以下も昇降機に含まれます。平成12年5月31日建設省告示第1413号

  • ホームエレベーター
  • 段差解消機(鉛直型・斜行型)
  • いす式階段昇降機       など・・・

【例外】鉄道等の改札内に設けられているものは建築基準法の対象ではないとされています。建築基準法第2条第1号

以上の昇降機には、基本的に、建築基準法が適用されます。

※ただし、この中に定期検査報告の対象外に指定されている昇降機が一部あります。詳しくは後述します。

 

なお、以下の設備は建築基準法上の昇降機には当たらないとされています。一般社団法人日本建築設備・昇降機センター「昇降機技術基準の解説」

  • 工場などの、いわゆる垂直搬送機。人が物の出し入れに直接介入せずに使用され、人が乗り込んだ状態で運転しないもの。
  • 機械式駐車場、機械式駐輪場、立体自動倉庫など。物が自動的に搬出される構造で、人が乗り込んだ状態で運転しないもの。
  • 舞台装置であるせり上がり装置

 

また、建築基準法では土地に「定着」しているものが対象とされている建築基準法第2条第1号ことから、機械を固定せずに使用するもの(可搬式階段昇降ユニット「J-MAX」など)は建築基準法の昇降機には該当しないと考えて良いでしょう。(ただし、安全のため、メーカーや販売店等が推奨する点検は受けましょう。)

 

定期報告の対象除外となる昇降機

建築基準法での「昇降機」の定義は前述した通りですが、その全てが定期報告の対象となるわけではありません。また、定期報告の対象となる昇降機は、特定行政庁によっても異なります。

例えば、東京都内の例を見てみましょう。

東京都内において、報告を行わなければならない昇降機(一般社団法人東京都昇降機安全協議会

  • エレベーター
  • エスカレーター
  • 小荷物専用昇降機(テーブルタイプは除く)
  • 段差解消機
  • いす式階段昇降機
  • 乗用エレベーター又はエスカレーターで観光のためのもの
    (一般交通用に供するものを除く)
※ ホームエレベーター等個人住宅内に設置された昇降機については報告を要しない。
※ 労働安全衛生法に基づく性能検査を受けている昇降機については報告を要しない。

 

小荷物専用昇降機のうちテーブルタイプ(東京都内の場合)

東京都内の場合は、小荷物専用昇降機の所に「テーブルタイプは除く」とあります。

小荷物専用昇降機には「フロアタイプ」と「テーブルタイプ」がありますが、このうち「テーブルタイプ」については、東京都内では定期報告をしなくても良いということになります。(あくまで東京都内の場合です。他の地域ではテーブルタイプについても報告の対象となっている場合があります。

ホームエレベーター等個人住宅内に設置された昇降機

「ホームエレベーター等個人住宅内に設置された昇降機については報告を要しない。」とあります。よくある「いす式階段昇降機」についても、個人住宅で施錠できる玄関より内側に設置されたものは異論の余地なく報告不要と解釈できます。

ただし、注意すべき物件としてありがちなのは、店舗併用住宅内に設置されている住戸の専用昇降機などです。特定行政庁へ(審査機関を経由して)問い合わせるなど、慎重に対応する必要があります。

また、定期検査報告の必要がない昇降機も、適切な維持管理のため、保守点検は行う必要があります。(点検の項で後述。)

 

労働安全衛生法に基づく性能検査を受けている昇降機

労働安全衛生法第41条第2項の性能検査の対象となる特定機械等に該当する昇降機です。

主に、工場等に設置されている、積載量1t以上の荷物用エレベーターなどが該当します(細かく言うと、労働基準法別表第1に規定する事業所に設置されたものが対象)。

建築基準法に基づく定期検査報告からは除外されていますが、労働安全衛生法に基づく「性能検査」を毎年受ける必要があります。

労働安全衛生法に基づく性能検査は、登録性能検査機関(日本クレーン協会やボイラ・クレーン安全協会など)に依頼して検査員を派遣してもらい、エレベーターの保守点検業者および事業所の担当者(取扱作業主任者等)の立ち合いのもと、実際におもりを載せたり、昇降路の中に入って安全装置をきかせたりしながら、行われます。

また、労働安全衛生法にもとづく毎月の「自主検査」(この記事でいうところの「点検」に相当)の記録も必要になります。(自主検査と言っても、自らが行うのではなく、保守点検業者に行わせるものです。)

 

余談ですが、これらの労働安全衛生法に基づく検査を回避する手段として「990kg積載の荷物用エレベーター」なるものも存在します。(機械的には1t積載とほぼ同じ構造で、銘板標示を990kgに変更した程度の特注エレベーター。)

 

国等の建築物に設けられた昇降機

国、都道府県及び建築主事を置く市町村が所有する建築物に設けられた昇降機については、建築基準法第12条4項に定めがあります。

建築基準法第12条(報告、検査等)
4 国の機関の長等は、国、都道府県又は建築主事を置く市町村が所有し、又は管理する建築物の特定建築設備等について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は建築設備等検査員に、損傷、腐食その他の劣化の状況の点検をさせなければならない。ただし、当該特定建築設備等(前項の政令で定めるもの及び同項の規定により特定行政庁が指定するものを除く。)のうち特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て指定したものについては、この限りでない。

この条文では「点検」と表現されていますが、実際に行う作業は先述の第12条3項に書かれている「検査」と同等の内容となります。ただ、「報告」は必要ないという条文になっています。

とはいえ、実際の業務としては、検査を担当した資格者は昇降機の所有者に対して(直接ではないとしても)結果を報告するはずで、その昇降機の所有者とは誰かと言うとつまり国や特定行政庁等であることから、実質的には第12条3項でいう「検査」と変わらないと言えます。

この第12条4項の点検に関しては、エレベーター業界の中の人でも(違いを分かっていながらも)「定期検査」「法定検査」などと呼ぶことが多いです。また、あえて「定期検査に準ずる点検」とか「法定検査」などの回りくどい表現がされている場合は、この第12条4項の点検を意味していると考えられます。

 

定期検査の実際の作業内容、流れ

現地では、検査者(資格者)が、定期検査業務基準に従って、検査項目を1つ1つチェックします。主索(メインワイヤー)やブレーキパッド、その他の指摘箇所など重要な箇所は写真も記録します。

検査者は、検査結果をもとに、「定期検査報告書」を作成します。(検査者が会社に戻ってから清書して作成することが多いと思います。)

定期検査報告書の「報告者」は昇降機の所有者または管理者の氏名を記載しますが、実際の提出作業は保守点検会社が代行して行います。

また、実際には特定行政庁に直接提出するのではなく、審査機関(東京都昇降機安全協議会、神奈川県建築安全協会など)を経由して特定行政庁に提出する場合がほとんどです。

提出後、エレベーター等に掲示するための「定期検査報告済証」、略して済証(ずみしょう)が発行されます。

済証の発行までに要する期間は、混雑状況にもよりますが、検査実施日から2か月程度を要する場合が多いと思います。

発行されるまでの間は「報告手続中」などの表示を行っておきます。

昇降機等 定期検査報告済証

定期検査報告済証

 

定期検査の契約について

後述する保守点検契約書などの「点検」の契約の中に、「検査」の項目も含まれているのが一般的です。

「点検」の契約を結ばず、「検査」のみを行うことはほとんどありません。それは、安全性や性能の維持が困難であるなどの理由により、保守点検業者が受け入れない場合が多いと思われるからです。(ただ、個別の事情は様々であるため、全く無いとは言い切れません。)

 

昇降機の「点検」とは

別名:「保守点検」・「メンテナンス」・「保守メンテナンス」・「定期点検」など

点検は、一般的に、「保守」と「点検」をまとめて「保守点検」と呼ばれることが多いように思います。

他にも、「メンテナンス」、「保守メンテナンス」、「定期点検」などと、様々な呼び方がありますが、だいたい同じ意味で使われていると考えて良いでしょう。

ちなみに、厳密な辞書的な意味としては、国交省の資料を参考にすると、以下のように解釈するのがよさそうです。

  • 「点検」:昇降機の損傷、変形、摩耗、腐食、発生音等に関する異常・不具合の有無を調査し、保守及びその他の措置が必要かどうかの判断を行うこと。
  • 「保守」:昇降機の清掃、注油、調整、消耗品の補充・交換等を行うこと。

(参考資料:平成28年2月19日 国土交通省住宅局建築指導課 「昇降機の適切な維持管理に関する指針」 ・ 「エレベーター保守・点検業務標準契約書」

要するに、昇降機に異常・不具合がないかを調べて、清掃や注油のような手入れをしたり、部品交換や改修工事が必要な場合にはその旨を管理者などに報告するのが保守点検です。

 

昇降機の「点検」の法的根拠

昇降機の管理者などが点検を実施しなければならないとされる法的根拠は建築基準法第8条(維持保全)にあります。

建築基準法
(維持保全)
第八条  建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。

また、その維持保全の方法を示すものとして、「昇降機の適切な維持管理に関する指針」が国土交通省より公表されています。その中に、保守点検に関する記述があります。

第二章 昇降機の適切な維持管理のために所有者がなすべき事項
第1 定期的な保守・点検
1 所有者は、自ら適切に保守・点検を行う場合を除き、保守点検契約に基づき、昇降機の使用頻度等に応じて、定期的に、保守・点検を保守点検業者に行わせるものとする。

個人住宅内に設置された昇降機(ホームエレベーターやいす式階段昇降機等)や東京都内等でのテーブルタイプの小荷物専用昇降機など、定期検査報告の必要がない昇降機も、適切な維持管理のため、保守点検は行う必要があります。

 

保守点検の周期

前述の指針が公表されるより前は、似た内容の文書が(旧)財団法人 日本昇降機安全センターより「昇降機の維持及び運行の管理に関する指針」という名称で発表されていました。その中に、以下のような記述がありました。

第 12  定期点検・整備等
1  所有者等は、昇降機の維持及び運行の安全を確保するため、使用頻度等に応じて専門技術者に、おおむね 1 月以内ごとに、点検その他必要な整備又は補修を行わせるものとする。

ここに「おおむね1月以内ごとに」と記述されていたことから、昇降機の点検は毎月行うことが基本とされてきました。

「おおむね」とは、スキー場などの冬季しか営業しないような施設で夏季に点検をしない場合もあることを考慮しているなどと解釈されることが当時は一般的だったと思います。

しかし、時代は移り変わり、遠隔監視や遠隔点検が普及してきたため、実際に作業員が現地で行う保守点検の頻度はケースバイケースとなりました。

新たに平成28年2月19日に国土交通省より公表された「昇降機の適切な維持管理に関する指針」では次のような記述に変わっています。

第二章 昇降機の適切な維持管理のために所有者がなすべき事項
第1 定期的な保守・点検
1 所有者は、自ら適切に保守・点検を行う場合を除き、保守点検契約に基づき、昇降機の使用頻度等に応じて、定期的に、保守・点検を保守点検業者に行わせるものとする。

ここでは「昇降機の使用頻度等に応じて、定期的に」と変更されています。

このような時代背景から、昨今では遠隔点検を高頻度で実施する代わりに現地での保守点検の頻度を2か月毎にするなど、点検周期をフレキシブルに決めている事例があります。

反対に、使用頻度の多いエレベーターや、比較的古い型のエレベーター等では、月に2回以上の保守点検スケジュールを組んでいる場合もあります。

実際、使用頻度が多いエレベーターは補充しなければならない潤滑油の使用量なども変わるため、理にかなっていると言えます。

また、使用頻度だけでなく、屋外に設置のエレベーターや、海の近くであるなど、個々に異なる状況を考慮して保守の回数を増やす場合もあります。

保守点検業者とよく相談をして、実情に応じた回数で適切に保守を実施し、安全性を保ち、事故を起こさないように努めることが望ましいと言えます。

 

昇降機の「検査」・「点検」の契約

「検査」と「点検」、いずれも、昇降機の所有者または管理者が、保守点検業者と契約を締結して実施します。保守点検契約は、自動更新付きの年間契約とするのが一般的です。

保守点検の契約の種類については、こちらの関連記事もご覧ください。

関連記事:「POG契約」と「フルメンテナンス(FM)契約」の違いとは?エレベーター等の昇降機の保守点検

 

 

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